スタンダードを創り出せ。
FCE エデュケーション事業本部 本部長
(本記事掲載の情報は、2021年時点のものです)
全く新しいプログラム「Wonder Code」の日本展開へのチャレンジ
2021年夏、エデュケーションチームの新しいチャレンジが始まった。英語で学ぶプログラミングカリキュラム「Wonder Code」の日本での展開だ。
Wonder Codeは、アメリカのシリコンバレー、香港、韓国というIT先進国のパートナーシップによって開発された英語で学ぶプログラミングカリキュラム。世界20,000以上の学校で使用され、100以上の受賞歴のあるロボット「Dash」を教材として、体系的なプログラミングを学ぶ。
Wonder Codeの特徴はこれだけではない。英語とプログラミングを学びながら、チームワークや問題解決力、そして海外では主流となっているSTREAM教育(Science/Technology/Reading/Engineering/Arts/Math)の知識を学べるこれまでにない全く新しいプログラムでもある。
Wonder Codeの日本での展開をスタートさせる今、新たなチャレンジ、そしてエデュケーションチームが仕掛ける新たな「企て」について聞いた。
楽しそうだけど、ビジネスとしては?
…懐疑的だった最初の出会い。
尾上:「Wonder Codeと出会ったのは、2019年12月のことでした。お世話になっている経営者の方から、韓国で話題になっているプログラミングラボがあるから話を聞いてみないかと声をかけて頂きました。ちょうど次の新規事業を探しているときだったので、軽い気持ちで話を聞いてみたのですが、その時は『楽しそうだけど、ビジネスとしてはどうなんだろう?』と懐疑的でした。なぜならプログラミングスクールは既に日本でもレッドオーシャン。当時の成功要因はすでに箱(教室)を持っているスクール系のチェーンが、100人、200人と集めている形でした。そう考えると、投資も大きく、後発でスピードをもって展開していけるのか…いや、正直難しいだろうと考えていました。とはいえ、実際に見ないと分からない…ということで、韓国に行って見てみることにしたのです。」
松本:「尾上さんからWonder Codeの話を聞いたのは、韓国にいく2週間前ぐらいだったかな?韓国で面白そうなプログラミングラボがあるから見に行くぞ!と。そこから2週間後には、すでに韓国に飛んでいましたね(笑)。」
実際に見てみないと分からない。
行こう、韓国へ。
尾上:「実際に見てみると想像していたものとは違うものでした。日本でやるなら10坪ぐらいあればできるなと感じました。現場で教えていたのも大学生。教材が優れているため講師によってプログラムの質がぶれにくいこともわかりました。もう少し改良すれば日本での展開もありかも…そんなふうに考えるようになりました。」
そんな想いが「日本で展開したい!」に変わったのは、どの教室にもあふれていた子どもたちの楽しそうな表情だったという。
尾上:「子どもたちが前のめりに学んでいたのが印象的でした。自分でどんどんトライして、失敗して、失敗してもそれが当たり前という感じで、すぐに次のトライを考えて、すごく楽しいのだなというのが伝わってきました。その表情を見て、日本でもこんな風に学ぶ子どもたちの笑顔を見たい…そんな風に思うようになりました。」
松本:「私は実際に見て、英語のレベルの高さに驚きましたね。授業を見たのは、年長さんだったと思うんですが、マジ?韓国ってこのレベルなの?と。日本の子どもたちを対象に展開することを考えた時に、この英語のレベル差は課題になるなと感じましたし、同時に日本の英語教育に危機感を感じた瞬間でもありました。」
そもそも英語やプログラミングといった領域への展開はエデュケーション事業本部の事業構想の中にあったのだろうか。
尾上:「グローバルリーダーというのを育てていく上で、『専門的な力』にフォーカスした教育プログラムを新しく展開していきたいという方針は持っていました。
これまでエデュケーションチームは、『7つの習慣J』や『フォーサイト手帳』のように汎用的な土台教育という部分に力を入れてきました。これはとても大切なものなのですが、グローバルに活躍する人材になるには、土台の上にさらにオリジナルなスキル、例えばITや語学力、プレゼンテーション力のようなものも必要だなと感じていたのです。」
松本:「私は、アメリカの学校で働いていたことがあるのですが、日本の子どもたちを見ていると、正解を求めるアプローチが多いなと感じます。日本の学校だったら、不正解だと言われることでも、海外では否定せずに歓迎する。だって答えは1つじゃないですからね。 日本の子どもたちが世界へ羽ばたいたときに、そういうギャップに苦しまないように、グローバルスタンダードな視点やスキルを身に着けてあげたいと思っていました。」
立ち上げは大変と想定外の連続…
松本:「事業の立ち上げは何度やっても大変です。特に尾上さんはむちゃくちゃ言ってきますしね(笑)。例えば、日本で事業化検証のために、1カ月以内に直営を立ち上げろとか(笑)。
もう急いで、誰が講師をやるの?研修はどうするの?教材は?そういえば生徒がいないじゃん、どうしよ?みたいな…。すぐにリーフレットをつくって、駅前でハンディングしまくりました。結果2週間で定員オーバーになるほど集まりましたけど!」
尾上:「あと、商品輸入も大変でした。教材を海外から仕入れるので、輸入の扱いになるのですが、初めてのことだったので、右も左も分からない…(笑)。」
松本:「そうそう(笑)。東京湾にトラックを運転していって、どこに着くか分からない船を待ち構えて、コンテナから荷物を引っ張り出してトラックに積み込んで、倉庫まで運ぶ!?みたいな(笑)。私…何やってんだろうって何度も思いました。関税や検査の手続きとかも超大変で、1個のロボットにつき百ページ以上ある安全検査の書類を用意したり、『ロボットのモデルナンバーが違うから、この検査証は使えない』といったハプニングがあったり、頭を抱えることの連続でした。」
尾上:「ゼロイチで事業を立ち上げるというのはそういう地道で、泥臭いことも多い…いや、そんなことばかりだけど、そういうことも含めてやっぱり面白いよね!」
英語が苦手な子もぐいぐい発言する
プログラム
松本:「Wonder Codeのプログラムは想像以上にうまくいっています。保護者からも『毎週スクールに行くのを楽しみにしている』とか『自宅でも簡単な英語を使うようになった』とかいろんな声を頂きました。嬉しいですね。
クラスには英語が得意な子もいれば、はじめて英語に触れたという子たちもいます。そうした中で、全員で取り組むワークがあるのですが、やっぱり英語が分からない子たちは、気後れしちゃうかな?なんて勝手な想像をしていたのですが、もう全然(笑)。『君は英語が得意なんだから紙に書いてよ、アイデアは僕が出すから!』みたいにぐいぐい発言してて。それぞれが自分の長所をアピールして役割分担しながら進めることが、たった3回目のワークででき始めている。これってすごいですよね。そんな様子を見て、私たちが育みたいと思っていたスキルが確実に育まれているなって手応えを感じました。」
尾上:「そうそう。僕らがやりたい教育っていうのはそういうこと。結局、英語が話せる、話せないというのはグローバル社会で活躍するためのファクターはあるけど、それだけではないですよね。例えば、日本人ってTOEICで800点、900点持っていたとしても、異文化や外国人のコミュニティに入った瞬間に、委縮してしまう、そんな傾向がありますよね。
私自身もそういう経験がありますが、そうした中で『俺は英語がそこまで上手じゃないけど、このチームを引っ張っていく』みたいなポジションを取れる人ってすごいと思うんですよね。
私たちは幼少期の教育をメインに事業を展開していますが、実は、幼児の段階で育めるスキルというのは、知れているんです。本格的に社会で使えるスキルなんていうものは、もっと後から身に着けるものですから。じゃあ、私たちは何を育みたいかというと、その可能性なんです。興味の対象を拡げたり、抵抗感をなくしておいてあげること。
英語をスラスラ話せるわけではないけれども、『英語は大好き。使うことに抵抗は無いよ。』とか『ITのコードを見た瞬間に目をそむけたくなる』ではなくて『コードに抵抗なく取り組める』とか。実際にふれてみたら、意外と楽しい、もっと極めてみたいといった好奇心や可能性を育んであげたいなと思っているんです。チャレンジの種をたくさん植えること。これが、私たちのやりたい教育なんですね。」
今後の『企て』についてこのように話す。
尾上:「今後のビジョンとしては教育コンテンツのマーケットプレイスになっていきたいと考えています。子どもたちの可能性を拡げるコンテンツを世界中から集め、日本の子どもたちに提供していきたいです。
将来の夢や興味関心というのは、今まで自分が触れたもの、知っているものの中からしか生まれてきません。だからこそ、子どもたちには様々なものを学び、体験し、生き方があることを知り、その中から自分が好きなことや興味を持てること、熱中できることを見つけてほしいのです。その『何か』さえ見つかれば子どもたちは自分で努力していけると思うんです。子どもたちにそうした『きっかけ』を提供する。これがエデュケーションチームのやりたい『企て』なんです。だから、いつか『Wonder Codeが僕のきっかけでした』みたいな子が出てきたら嬉しいですね!」